ROOM.1 ジャワ・ハイツ203号室(2)

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 炎と戦う男のはずなのに、逆にその炎自体を纏っているようだ。ぐらぐらと煮えたぎるような熱い視線には、抑えきれない感情が滲み出ている。 (棉苗(わたなえ)上亮(じょうすけ))  弘は時計を確認するふりをして、こっそりと消防士の名札を読み取た。 (絶対、怒ってる)  本来、素行不良な生徒に雷を落とすのは担任の役目だ。重度のヘビースモーカーである羽賀山は隙あらばすぐに喫煙室にいなくなる。貴重な時間を割いて救命講義を行っている消防士たちにしてみれば、これも腹立たしい振る舞いだ。   弘の予感を嫌な予感をそのまま体現するように、上亮はすっと手を挙げる。ゴツゴツした指と太い手首が印象的だった。   「流山さん。ちょっといいスか?」 「ど、どうしました、…棉苗さん?」  発せられた声は見た目通り男らしい。  教壇に立っていた流山はわざとらしく咳払いをした。自分だって叱りたい衝動を抑えて、黙々と講義を続けているんです。大人なら我慢してくださいよ。そう目で訴えているように弘には見えた。  しかし上亮の手が下がる様子はない。念押す。 「いいスか?」 「本当に今じゃないとダメなんですか?」  上亮の目は獲物を捕らえるように動く。アポロキャップの奥から、鋭い光が灯った。 「今じゃないとまずいんで」  来るべきものが来たのだ。     
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