ROOM.1 ジャワ・ハイツ203号室(3)

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 マホガニー製の立派な執務机の向こうから楽しそうな声が上がる。夕暮消防署長の千曲だ。 「確かに、吸い上げるのと出すのじゃ違うわよねぇ」  見た目はどこにでもいそうなおじさんである。だが、ナチュラルに女口調だ。「僕、おばあちゃん子だったのよ~」とケラケラ笑って流そうとするが、隊員からは常に新宿二丁目との関連が疑われていた。マッチョはオネエにモテる。ここにいる誰もが実感を伴って心得ていることだ。 「署長、笑うところじゃないですよ!!」 「僕最近ボクサーパンツ派に転向してみたんだけど、あれぴったりしてて気になるわよねぇ。トイレで点呼とっちゃいそう」 「当然やります」  上亮は重々しく頷く。二人は息ぴったりに「ちんポジよーし!」と号令を放った。夕暮市40万人を火災から守る消防署長とその部下にしては、下品すぎる発言だった。 「ぐぬぬ…」  面白くないのは流山だ。自分の晴れ舞台である救命講習を礼儀作法がなっていない不良消防士に滅茶苦茶にされ、振り上げた拳を降ろすことができない。小学生のように上亮の素行の悪さを報告した。 「大体こいつは口が悪すぎるんです!模擬人体使った胸部圧迫の実習中、純粋無垢な生徒達に何て言ったと思います!?」     
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