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プロローグ
ピ、ピ、ピ、ピ
規則正しく鳴る機械は、
ベッドに横たわる老男性に繋がれている。
弱々しい脈を機械がなんとかキャッチして、
表示している。
金色の刺繍が施された大きなベッド。
その周りを十数人の男達が囲んでいた。
誰もが険しい表情で、ほとんど動かない老男性を見ている。
その中で唯一、スーツを来た30半ばの男性は
無表情で立っていた。
ベッドに沈みながら薄れゆく意識の中、ゆっくり目を開けた。
眼球だけを不気味に動かして何かを探す。
そして、無表情の彼を見つけると
力の入らない弱々しい腕をなんとか布団から出して持ち上げて彼に突きつけた。
動き出した老人に周りがざわめく中、
彼だけはその顔を変えることはない。
突き出された手に握られていたのは、
しわしわになった紙だった。
何度も握り直したのか、シワが無数についている。
しかしよく見ると、金箔が織り込まれた上質な和紙だ。
それを弱々しく、しかし力強く突きつけていた。
「か、また…」
無表情の彼をそう呼び、呼吸をサポートしている酸素マスクを反対の手で鬱陶しそうに外した。
「お前に、これを、託す…」
紙を握る手に力を込める。
何が書かれている紙なのか、握られたそれからは何もわからない。
周りに立つ男たちは、ただ黙って、彼らのやり取りを見守った。
「わしの、遺言だ…」
その言葉を聞いて、鎌田と呼ばれた男はそっと握られた和紙を受け取った。
広げることなくそのまま胸ポケットにしまう。
それを見た老人は力なく笑い、安心したように目を閉じた。
「任せるぞ、…鎌田」
それが最期の言葉だった。
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