私と彼女とあの女

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私と彼女とあの女

夜間帯の病院というのは不気味だとよく言われる。 私も看護師として病院に勤め始めて、初めて夜の病院というものがどういうものなのか分かった。新人で入って初めての夜勤の時には恐怖もあったが、入社して三年目にもなると不気味な恐怖よりも、仕事がこれ以上忙しくなったら嫌だなぁという恐怖の方が強いものだ。 部屋の電気を消灯して、パソコンに向かって夜間帯の患者の様子を記載している途中で、とある一室から話し声が聞こえてきた。 そこはナースステーションから一番近い部屋で、所謂重症な患者や認知症を患って危険行動がみられる患者の部屋だった。四人部屋の一番入口側に寝ていたお婆さんが、一人で何かを話している。 他の三人はそんな話し声を気にもとめずに寝ている様だったが、話し声の大きさが徐々に大きくなって来たので様子を見ようと部屋に入った。入院中の患者が日中寝てしまい、昼夜逆転して夜に溌剌と活動をし出す事は割りとよくある話だ。 「竹村さん、どうしたんですか?もう夜中ですよ」 「あそこに立ってる人とお話ししてたのよ」 唐突に目の前のお婆さんから発せられた言葉に、私は彼女が指差す方向を振り返った。     
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