ホテルの地下は眠らない

入店した当初から、この店には幽霊が住み着いている、という話を聞いていた。

若い女と、子供の幽霊。

２人が親子なのかはわからない。

女は主に女性用トイレに。
子供はどうやら男の子らしく、フロアにいるらしい。

霊感が無い私は、そうなんだ、程度の感想だった。

見えないけれど、感じることは何度かあった。

女性用トイレは個室が２つ。

自分しかトイレ内にいないはずなのに、
隣の個室からペーパーホルダーが回る、カラカラカラ…という音が聞こえる。

用を足している最中に、背後に強烈な気配を感じて
考えるよりも先に振り返って「誰っ？！」と口走ってしまったこともあった。

もちろん、背後はタンクとタイル貼りの壁しかない。

フロアで接客中、霊感が強いというウワサの常連さんが
ふとビール瓶を手に取り、テーブルの端に移動させる。

謎の行動に、どうしたんですか？と尋ねると
「子供が（瓶を）いたずらしようとしていたから」と返ってきた。

フロアにいるのが子供だ、という情報の出所がそもそも
この常連さんなのかもしれないが
冗談や嘘でキャストを怖がらせたり、興味を引こうとするタイプではなかった。