序話 「魔女との出会い」

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 息も絶え絶えに軽口を叩く〝彼女〟に、次代の『魔女』を継いだ幼子――少年は顔をぐちゃぐちゃにして頭を振った。 「師匠……死なないでくださ……っ!」  しゃくりあげながら頼んでも、意地悪な師匠はいつも通り、意地悪く笑うだけ。 「もう無理よぉ……血も魔力も足らないもの……。だから、そろそろ逃げなさい。あいつらに、渡しちゃ駄目。この契約を途絶えさせても駄目……魔女狩りなんかに負けたら……容赦、しない、わ、よ、馬鹿……弟……子……」  〝彼女〟の身が傾ぐ。支えたくても支えきれず、地面にその血塗れの体は横たわる。目を背けたくなる背の傷からは今も絶え間なく血が流れていた。その血は少年の体も濡らしている。 「師匠!」  必死で呼びかけ体を揺するが、焦点は合っていない。少年は察してしまった。バラのように鮮やかだった双眸には、もう少年の姿は映っていないのだと。 「……いき、な、さい、ニー……ロ」  行きなさい。生きなさい。命じられた最後の、最期の言葉。少年は何度も何度も涙を拭い、震える足で立ち上がる。見下ろした〝彼女〟の双眸にはもう光はない。もう二度と、その声を聞くことはない。もう二度と、笑顔を見ることはない。もう二度と、怒ってもらえることはない。もう二度と、何かを教えてもらえることはない。     
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