0人が本棚に入れています
本棚に追加
小さな公園には遊具がほとんどなかった。雑草は好き放題に伸び、ブランコは鎖が切れていた。シーソーとすべり台は錆にまみれ、長らく使われてないのがよくわかる。ベンチもあるが、ペンキが剥げ、木が腐りかけていた。
周囲にはほとんど民家がない。ボロアパートや団地はあるが、ある事件をきっかけにして住む人が激減した。
ちょうど入り口向かいにあるベンチに座った。体重をかけるとギギッと、なんとも言えない音がした。柔らかい木と金属がすり合うような音だった。リュックを太ももの上に乗せた。
指を組み、肘を膝に乗せた。口元を隠し、公園の入口をじっと見つめた。
この公園で遊んだ記憶が蘇ってきた。最後に遊んだのもまた八年前だった。
弟に手をひかれて、朝から昼間で遊んだ。ブランコが好きで、後ろから勢い良く押すととても喜んでいた。勢いをつけすぎて落ちそうになって、コウジが身を挺してブランコのイスごと受け止めた。怖かったのか驚いただけなのか、弟は声を上げて泣いた。コウジのシャツを強く握りしめ、そのシャツは弟の涙で濡れていった。
十二歳年が離れた弟は、自分の子供のようだった。目に入れても痛くなかった。クセのある髪の毛も、柔らかい頬も、まだ小さい手のひらも、その全てが愛おしく、可愛かった。
こみ上げてくる涙を抑え、目頭を抑えた。
その時だった、公園の入り口から一人の男性が入ってきた。ヨレヨレのシャツとジーパン。小さめのズタ袋を肩に掛けていた。髪の毛もぼさぼさで人相はよくない。唯一の救いはヒゲをちゃんと剃っているところだろう。
「おい」
コウジの前に立ち、その男性はぶっきらぼうにそう言った。
「おい、とはちょっと失礼なんじゃないか?」
「失礼? てめぇのが失礼だろうが。年上呼びつけといてなに考えてやがる」
「お前に謝らせたい。ただそれだけだよ」
「はあ? 謝罪ならしてやっただろうが。面会でも、法廷でもしてやったろう」
「謝罪ってのは「してやる」もんじゃないだろ。して当然のものだ」
「お前バカか? 俺にその義務はねーんだよ。もっと世の中見てこいよガキが。で、俺をここに呼びつけたのは謝らせるためか? それだけなら俺はもう行くぜ。ようやく出所できたんだ、好きなことやらせてもらわなきゃ」
最初のコメントを投稿しよう!