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ヘラヘラと笑いながら男が言った。
その態度に、思わず舌打ちをした。
「俺は謝らねーからな。さっきも言ったが、もう何度も謝った。八年も拘束された。これ以上お前らに関わるのはごめんだ」
「いや、もう一度謝ってもらう。俺にじゃない、弟にだ」
「イヤだね」
男が背を向けた。もういいだろ、とでも言いたげだった。
気だるそうにカカトを引きずるような歩き方。この歩き方は、初めて会ったあの日と一緒だった。
サバイバルナイフを取り出して、男の元へと駆け出した。
足音を聞いた男がこちらへと振り向く。が、関係ない。
研いだばかりのナイフは、男の腹部へとめり込んだ。ズブズブと、なんの抵抗もなく飲み込まれていく。
「て、てめ――」
左手で口を抑え、そのまま地面へと倒れ込む。マウントポジションを取って、今度は顔面を目一杯殴りつけた。鼻を、口を、頬を、目を、何度も何度も殴った。
あの日、朝から昼間で公園で遊んだ。昼ごはんを食べた後で、弟は一人で公園に行ってしまった。ちょっと目を離しただけなのだが、よほど楽しかったのだろう。
コウジはうとうとしてしまったため、代わりに両親が迎えにいった。焦ってはいたが、おそらく公園だろうとわかっていた。
微睡みからなんとか抜け出したコウジもまた、両親に遅れるほど十分で公園に向かった。
そこで、一人の男に出会った。
血まみれだった。両親と弟が真っ赤になって倒れていた。
男はすぐに捕まった。殺人の理由は「幸せそうだったから」と証言していた。
三人殺害したというのに、判決は執行猶予付き懲役数年。納得などできなかった。しかし、判決は覆らなかった。
その時から心に決めていた。
国が裁かないのであれば俺が裁くしかないだろう、と。
コウジの下で、男は動かなくなっていた。まだ息はある。目が動いているところを見ると意識もある。
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