表題壱、幽霊

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 …――今日、たった今、一人の少年が死んだ。  一枚のイラストを遺して。  孤独な少女が凪いだ湖の上に浮かび静かに佇み大きな月をバックにした絵。  彼女は誰かを待っているようにも見える。  たった今、死んだ少年が魂を込めて描いた美麗なイラスト。  幻惑的。  そう、表現するに値する作品。  死んだ少年は考える。思う。想う。小間環璃(こま たまる)という幼なじみで唯一の味方である少女の面影を脳裏に思い描き。少年の想いは後悔なのであろうか。死んでしまえばもう二度と彼女と会えないという後悔なのであろうか。  多分、そう。  少年の想いは未練であり、後悔なのであろう。  悲しい後悔。  何故ならば少年が遺したものは想いだけではなかったのだから。  少年はまどろみへと堕ちゆく。  深い深い深淵へと。
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