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津軽軍第二独立召喚連隊は、あおもり犬を使役したまま進軍を開始。瞬く間に国境を回復した。率いる田村は、術を維持するために部隊に「パティシエのりんごスティック」を配布した。魔力を回復した隊は、ついに南部地方へと進軍した。
七戸へと白い巨体が進む。もはやこの地に敵はいない。誰もがそう思っていた。蹄の音が響いてくるまでは……。
十和田市現代美術館のランドマーク、フラワーホース。色とりどりの花に覆われた高さ約五・五メートルの体躯。あおもり犬が全く反応できないスピードで、前足がその顔面を蹴り飛ばした。
直撃を受けたあおもり犬は数十メートル吹き飛び、木々をなぎ倒しながら地面に転がった。
着地した前足を軸に体を反転させたフラワーホースは、流れるように後ろ蹴りを繰り出す。あおもり犬は顎を打ち抜かれ、仰向けにひっくり返った。
「よし!」
馬の背には沢村といたこ。跨るというよりは、しがみついている。
「いたこ様、素晴らしい霊術です!」
「油断するんじゃないよ」
いたこの視線は、遠くを見つめていた。
「犬だけじゃなさそうだ」
いたこの視線の先。青みがかった巨人の影が、徐々に近づいていた。
青森市に配備されているのは第二独立召喚連隊だけではない。
青森市青龍寺。ここには青銅坐像では日本最大の大日如来像、通称「昭和大仏」がある。第三独立召喚連隊は、ついに昭和大仏の運用に成功したのであった。
座った状態で約二十一メートルの昭和大仏。これが歩行して近づいてきているのだから、ウルトラマンみたいなサイズ感である。
「あんたはこのまま白い犬を食い止めな。人に使われし哀れな大仏様はわしがお相手しよう」
いたこはフラワーホースの背から跳んだ。着物をはためかせながら宙に浮かび、呪文を唱える。
巨大なイカの足が大地から伸び、大仏の手足に巻き付いた。八戸市名産のイカによる、いたこ得意の霊術「八戸式捕縛陣」である。大仏の進行が止まる。
しかし、やがてミシミシという不吉な音と共に、右腕にとりついたイカ足が引きちぎられた。残り三本も長くは持つまい。
いたこの表情は、なんと笑顔。全力を出せることを楽しんでいる。
クロマグロ型の無数の氷弾、大間式マグロ連弾が、昭和大仏に襲い掛かった。
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