第一章

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「でもね、アミー。この力は決して良いことばかりじゃないんだよ」  一気に飲み干して息をつくアミーの背後から聞こえた天の声。いつもより低く、それでいてどこか冷たい声はアミーの背中をぞくりとさせた。返答もしないまま振り返り、思わず天の表情を凝視してしまう。けれど天はいつもとなんら変わりない笑みでアミーが描いた絵を指差した。 「出して良いのは無機物だけ。だからアミーが描いた猫はアウトだね。生き物を実体化させるのはルール違反なんだ」 「だからコレは猫じゃなくて羊だってば」 「あれ? そうだっけ? まあどっちにしても凄い絵心だね」 「はあ。ほんと失礼」 ため息をつき、ぎっしりと絵の描かれたメモ用紙を丸めてポケットへしまうアミー。落ち着いていたはずの頬の赤みが再発してしまっているのは、己の絵のレベルを天に晒してしまったことへの羞恥なのか。先程は夢中になって描いていたせいで気付かなかったが、天の絵と自分の絵の差に落胆するアミー。しかしカンバスに描かれた天の絵をじっくりと眺めたことである事に気付く。 「ねえ。風車祭の風景は描かないの?」  そう。天が描いていたのは遥か向こうに見える水平線と、そこに合わさる灰色の雲。てっきり飲み食いをして楽しむ島民や飾り付けられた麻布を描いているのだと思っていたアミーは、不思議そうにカンバスを指差した。だが問われた天は口をつぐみ、纏う空気をガラリと変えて黙り込む。  一瞬の間。この場だけが切り取られたかのような静寂に、アミーの胸がドクンと波打った。何故なら天の表情が見えなくなったから。指差された先のカンバスに目をやる天の表情は前髪で隠され、アミーの視界に映るのはヨークイエローの髪だけ。地を這うように流れる風がアミーのスカートを揺らし、そしてようやく天が振り返る。 「……うん、そうだね。でも今日は空を描きたい気分なんだ」  言葉を紡ぐ声色はこの上なく優しく、穏やかで。  しかし真っ直ぐに向けられた天の瞳を見た途端にアミーは理解した。 ────『ああ、彼は”嫌い”なのだ』と。
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