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「そんなことないよ」
結局口に出来たのは一言だけ。説得力もなく、言い訳にもならない無力な言葉。けれど続く言葉も思い浮かばず微笑むだけの天の前に立ち、アミーは固く握った右の拳を天の胸に押し当てた。
「勘違いしないでね。私は天の絵、すごく好きよ。灰色の空だって好き。でもね、絵って無限なものでしょう? そこに無いものでも、夢や妄想で書き足せば良いじゃない。勿体無いわ」
「アミー……」
「白い雲や、ウミネコや、時々水面を跳ぶイルカとか。もっと楽しいことも描いてよ、天。ね? 今日は風車祭なんだから」
そう言って笑うアミーに胸を高鳴らせる天。握られた手は芯まで伝わるほどに暖かく、そして優しく天を拘束した。向けられた純粋さに絆されそうになる。全てのしがらみを投げ捨て、ただ素直に目の前の少女と笑っていたくなる。しかしそれと同時に思ってしまう。
────『ああ。彼女は”好き”なのだ』と。
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