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ニューヨークに行こうと思い立ったのは、夏だった。
体温まで奪い尽くしそうなカフェの空調ににぶるっとする。夏でも寒がり。でもノースリーブ着てしまう。肩とか肘に布がまとわりつく感じがあまり好きじゃない。
ガヤガヤした喧騒は好き。
だけど満員電車は嫌い。
昼時でごった返すこのカフェみたいに、ベタベタしない大勢の中で呼吸するのがちょうど合ってる。
「今から会いに行くんだー」
楽しそうなお喋りの1つが耳に飛び込んできた。他人の何気ないセンテンスに反応してしまうくらい、毎日が物足りなくなってたということかな。
会いに行く、か…
いいなあ。見ず知らずの女子とリンクした言葉が、レモン色のソーダ水の中の氷みたいにぐるぐる回り始める。
岡崎先輩は、10才以上も年上の研究生で、私たちは密かに付き合っていた。NYの大学に行くと聞いた時はさすがにショックだったけど、行くなとゴネることじゃないし、でも超遠距離恋愛に未来が見えなくて、それっきり。
有志で見送りに行った時、「遊びにおいで」と言ってくれた。誰にでも気軽に言える言葉ではある。でも私にだけは特別な意味を含ませてくれた気がする。
ストローでちゅっ…と吸うとほの酸っぱい。もう少し刺激が欲しくて添えてあるフレッシュレモンの一片を齧ると、じわっと甘い唾液が湧いてきた。
ストローでグラスの中をぐるぐる回すと炭酸がピチピチ騒いで弾けていった。
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