NY地下鉄トークン

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手際よくカードをかざす岡崎先輩を見て慌ててトークンを財布に戻すと、見よう見まねで後を追いかけた。使ってみたかったな、トークン…なんて夜空の未練を断ち切るように、地下のホームに無愛想な銀色の車両が入ってくる。 「NYの地下鉄って、車両にでっかく落書きされてるのかと思ってたー。」 「それって日本人がみんなサムライかニンジャだって言うようなもんじゃない?」 こうしてシートに座ると、東京メトロとなんら変わらない。それ以上に肌の色も持ち物も暇つぶしの仕方もみんなまちまちで、ひとくくりにできる表現が見つからない。無知をさらけ出して、なんか先輩まで無愛想な話し方。愛想つかされたかもしれない。 「旅慣れない女の子がさ、ノースリーブのキャミ着て夜のマンハッタンを歩くのって良くないよ。」 「でもほら、あそこの人はTシャツノーブラ。」 向かい斜め前のサングラスを頭にかけた相当ふくよかな中年女性なんて、白い肌に食い込むような色褪せたTシャツとショーパンだ。股を開いて何か食べて 「一緒にするな。」 ブロードウェイジャンクションで乗り換え。頑張って冒険クエストこなして、こうして久しぶりに会えたのに、四ツ谷とNYを覆っていたはずのひとつなぎの空は地下に潜ればもう確かめることができなくて。 「トークンの文字、読めた?」 「え?何か書いてあったっけ。」 「GOOD FOR ONE FARE。」 「…1つの運賃のために、良い?」 「まあ、そういうこと。1回限り有効。」 1回限り。やっぱりそうか。迷惑か。もう来るなよって聞こえる。 次の駅に着いて扉が開いた途端にヒップホップが鳴り響いた。デッカいラジカセデッキを抱えたイキのいい兄ちゃんが乗ってきたんだ。 「この風景は、きっと変わらないなー。」 先輩が苦笑した視線の先には、ラジカセの絵に赤でバッテンされた、ここならではのピクトグラムが貼ってある。 ラジカセ持込禁止なんてさすが、NY。イメージ通りでやっと肩の力を抜いた。
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