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老人は杖をつきながら薄暗い階段を降りていく
右には美しい秘書、左には髭の似合う執事
ゆっくりとした足取りで階段を降り終えると、老人は目をつむる
ここは100年前に使われなくなった古い地下鉄、線路は通っているが使う人がいなくなり、閉鎖され商業施設が建てられ、人々の記憶にはもう無い場所
「旦那様、いかがなさいました?」
髭の似合う執事が、老人に笑みを浮かべ気遣う
「クラウスよ、解っておるであろう?」
老人は目をつむりながら、笑みを浮かべている
「沙織さん」
「はい」
秘書は老人の言葉に、パイプ煙草を取り出す
老人はパイプ煙草を優しく吸い、そして吐く
老人はパイプから出る煙を懐かしそうに眺めると、煙草を味わう
「ここで吸う煙草は格別だな」
執事はその言葉を嬉しそうに聞きながら、通路のレトロランプを灯ける
淡いオレンジが通路を照らし、その中の3人は歩き始める
カツーン、カツーン
老人のつく杖の音が通路に響く
「旦那様、愉しそうですね」
「この音も、また結構」
木で作られた改札を抜け、ホームへ続く階段を降りる
ホームを降りた先には、黒塗りのレトロな列車
列車の前には、若い駅員が手を揃え一礼する
「お待ちしておりました」
「そうか、運転手はアルフォンスか」
老人は嬉しそうな笑みを浮かべ、目をつむり煙草を吸う
そしてゆっくりと煙を吐きながら目を開ける
「では、行こうか」
その言葉にアルフォンスは列車の扉を開ける
秘書が老人の手をとり少し高い階段を登る
列車の中はさながら高級ホテル
レトロランプに照らされ、落ち着いた高級感が演出されている
流れるクラシックが高級感を高める
老人はゆっくりとした足取りで中央に置かれたソファーに腰を掛ける
ソファーに深く座り肩をつけると、煙草を深く吸い
そして吐き、左手の人差し指をトントンと2回たたく
秘書はそれを見てパイプを老人から受け取り、メニューを取り出す
メニューには、老人が歩んで来たであろう80年が10年事に区分けされている
「フフッ、紙にまとめてみると少ないな」
「ですが、その中身は1ページ1ページが濃厚なワインの様、赤く燃えた時白く優し時、旦那様にしか作れない味に仕上がっていることでしょう」
秘書はメニューを持ちながら、優しくそしてワクワクした顔で老人に語る
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