地下鉄に乗って

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3人は笑いながらグラスを掲げる 老人は笑顔で、執事は照れ臭そうに、秘書は微笑み 老人が立ち上がり 「グローリア(栄光を)」 と乾杯する 2人も小さくグラスを掲げ、乾杯の挨拶をした しばし3人での談笑、いままでしなかった普通の会話を3人は楽しんだ [まもなく、当列車は○○20年6月21日に到着いたします] アナウンスが流れる 老人はメニューを手に取り60年前の今日を思い出そうとする メニューには、[食事の失敗]と書かれている 老人は長いアゴヒゲを撫でながら首を傾げる 「年よのぅ、全く思い出せん」 「ふふっ、60年前ですから仕方ありませんわ」 「60年前ですと、私も存じ上げません」 秘書と執事は微笑み答える 老人はハッハッハッと笑いメニューを机の上におきグラスに残ったワインを飲み干す ヒュウゥゥゥゥ、キキッキッ、ヴヴン、シューーーー 列車がゆっくりと止まる プシュっと勢いよく扉が開く 「お手を、旦那様」 「うむっ」 老人は秘書の手をつかみソファーから立ち上がる 執事がソッと杖を差し出す 老人は杖を手に取り、トントンっと床をたたく 老人は列車を降りる 降りた駅は暗闇と静寂に包まれている 執事がレトロランプに灯りを灯す 「駅はおなじなのですね?」 秘書は少し驚いた顔をする 「左様、ここは何も変わらん」 「ご存じなのですか?」 「昔、同じ経験をした」 老人は上を見上げ、遠い目をする 列車からシャツにズボンとラフな格好に着替えた運転手が降りてくる 「アルフォンス、いい運転だった」 「有難う御座います、お爺様からのお言葉光栄に存じます」 運転手は微笑み軽やかに右手を体に沿え一礼する 「では参ろうか」 老人は杖を使い歩き始めるが、足取りは軽く杖はただの飾りの様に見えた 「お爺様、お身体の調子がよろしい様で」 「列車のおかげだアルフォンス」 「列車のおかげ…ですか?」 アルフォンスは首を傾げる 「いずれ分かる」 首を傾げるアルフォンスに笑みを浮かべ駅の入り口へ歩く レトロランプが灯る通路を歩き、木で作られた改札を抜け、入り口にたどり着く
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