地下鉄に乗って

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駅の入り口から吹くすきま風に老人は瞼を閉じ味わう 「まさしくあの頃の空気、あぁ懐かしい」 老人は感慨深く空気を味わうと、杖を人差し指でトントンっと叩く 執事が扉を開ける 登る扉の先にはビルとビルの間に挟まれた薄暗い細い路地 路地を抜けると、小さな店の前に出る そこは小さな店であるようだが、入り口には服装チェックをするドアマン、入る人々はみな正装である 「おお!そうか!この日であったか!」 老人は思い出せた事が嬉しいのか、大きく声をだし笑う 「クラウス、急ぎアルフォンスと同じ身の丈でスーツを用意しなさい」 「かしこまりました」 「あっ、クラウスさんこちらを」 一礼し動き出そうとした執事に、秘書は紙と封筒を渡す 紙は60年前の街の地図、封筒には60年前の紙幣 執事は中身を確認し、一礼しすると地図を広げながら歩いていく 運転席はその光景をなるほどと言った顔で眺めていた 「ワシが指示しておいた、各時代の資料、必要品を集めておけと」 「流石お爺様です、感服いたしました」 老人に参りましたと一礼する運転手 「それで、お爺様は何を失敗なされたのですか?」 「大したことではない、若気の至りだ」 運転手の質問に、老人はフッと笑みを浮かべ、お店を眺める 老人は杖をトントンと叩き、髭を撫でる 「この日はな、父上が会社の上役へ自分の御披露目をしようとしていた大事な日であったのだ」 老人は遠い目をすると運転手は目を閉じ、自分の御披露目の時を基本としてイメージを広げる 「ワシはこの頃ロックバンドに夢中でな、この日もメンバーと練習をしていた」 「意外です、お爺様がロックに興味があるとは」 「アルフォンスよりも、腕はいいはずじゃぞ?」 「では後程セッションしますか?」 老人の挑発に運転手はニヤリと笑い応酬する 老人は運転手にギターを持つ仕草を見せ笑う 「話は聞いていたが、ワシはただのどうでもいい堅苦しい食事だと思い、そのままの姿でここに来たのだ」 老人は恥ずかしそうに懐かしそうに店を見つめる 「もちろん、中には入れてもらえず、その光景は中から見られていてな」 イメージしていた運転手には、中で苦笑する上役、心の中で七光りかと呟く上役、そして怒り狂う自分の父親を想像して身震いしていた
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