地下鉄に乗って

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写し出されたのは、小さなお店の会食の風景 小さいながらも、中は上流階級であろう、いかにも高貴といわんばかりの面々 スーツを着た若者が入り口から堂々と入ってくる 「おお、あれがエリック様の御息子、あれで20歳とは」 「素晴らしい御息子をお持ちで羨ましいですわ」 「一族は安泰のようだ」 一同は口々に称賛の言葉を述べる それを耳にし、エリックは目をつむり満足そうにする 「よくきた、フレデリック!誇らしいぞ!みなに挨拶なさい」 「はい、父上」 フレデリックはマイクの前に立ち一礼する 映像はここで終わる 執事はランプを明るくする 老人は目をつむり満足そうに天を仰ぐ 運転手と秘書はそれを見て嬉しそうに微笑む 「こういう世界もあったのだなぁ」 老人はつぶやく 目を閉じ、誇らしげな父親の顔を思い浮かべる 一滴の涙がこぼれる 「お爺様?」 「嬉し泣きだ、心配するな」 老人は目を開ける、目には強い光がある 「これは、ワシの誇らしく一族のために命を捧げた人生のご褒美なのだ」 「ご褒美…」 「アルフォンスよ、迷わず進むのだ!後悔は後で正せ、ワシら一族はその権利が与えられている!」 老人の言葉に運転手は姿勢を正し、力強い目でうなずく 老人は運転手の顔を見ると満足そうにうなずく 「流石は、ワシの孫じゃ!」 老人は秘書にワインを持ってくる様に指示する 秘書はワインをグラスに注ぐ 「お前はまだだったな」 「60年物ですか、水にはなってませんか?」 「テイスティング済みじゃ」 老人と運転手は笑い小さく乾杯すると、ワインを味わう 複雑な味わい芳醇な香りいつまでも続く余韻 「これが、お爺様の人生ですか、素晴らしい」 老人は満足そうにうなずき、ワインを楽しむ 老人と孫の語らいは、夜が更けるまで続いた これは、老人が人生の最後に旅する後悔を正す最後の旅の物語である
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