第一章 『にき、一緒に踊ろう』

11/21
前へ
/136ページ
次へ
 こんなの……私にできるはずがないじゃない。音、ちゃんと聞けないし、スタイルも良くないし、リズム感覚だって。言い始めると、負の要素はキリなく浮上する。  それでも一緒に入ろう、と言って聞かなかった翔馬と、社交ダンスを気に入ったらしい舞子、二人に押され、私は逃げ場を失ってしまった。  見学には行っても、この光景を目の当たりにして、本当に舞子が入部したいと言ってきたのには、心底驚いた。  舞子は、不安じゃないの?  何でそんなに前向きに、生活を楽しもうと思えるのだろう。  難聴を言い訳にしてる私の方が、例外なのだろうか。いや、そんなはずは……。 『にき、私は入部しようと思うよ。一緒に始めよう、一緒じゃなきゃ嫌だ』 『にき、俺と一緒に頑張ろうよ。俺はにきと踊りたい』  二対一はズルい。押しに弱い私は、押しの強い二人に勝てるはずなく……その日、その場で、不本意ながら入部届を書かされたのだった。  社交ダンス、本当にできるの? マネージャーのようになっちゃうんじゃない?  そもそも、コミュニケーションが上手くとれず、マネージャーにもなれないか……。  あぁ、どうしよう。その夜、私は入部したことに何度も後悔し、頭を悩ませた。
/136ページ

最初のコメントを投稿しよう!

77人が本棚に入れています
本棚に追加