第一章 『にき、一緒に踊ろう』

4/21
前へ
/136ページ
次へ
 専業主婦の母に送り出されると、私は徒歩通学で十分先にある聾学校へ向かう。  私の通う学校は、小学部からずっとこの聾学校である。人数は小学部から高等部まで全員で六十名ちょっと。市外から通う生徒もいる、この辺りでは大きな聾学校だ。  軽度から重度、聾唖など障害は様々だが、メンバーは小学部からずっと同じで皆仲が良い。 『にき、おはよう』  教室に入ると、友達の橋詰舞子(はしずめ まいこ)が笑顔で声をかけてくる。  高校二年、四月。クラス替えなどなく、私のクラスには昨年と変わらず五名の同級生がいる。  五名のうち三名が男子生徒で、女子生徒は自分と舞子の二人。舞子は私の親友である。 『にき、数学の課題した?』 『したけれど……あ、もしかしてまたサボってる?』 『お願い、見せて』  自分とは対照的に積極的で、お調子者の舞子。  だが、舞子なしでは、今の自分にはなっていなかった。 『にきは頭良いから、頼りになるんだよね』 『もー』  何でもしようと真剣に取り組んだら、舞子は簡単にできちゃうタイプ。  だから、何だか勿体無い。
/136ページ

最初のコメントを投稿しよう!

77人が本棚に入れています
本棚に追加