第一章 『にき、一緒に踊ろう』

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 舞子は中度の難聴であり、補聴器をつければ耳のすぐ近くで声をかけると、聞き取れるレベル。大声ならば聞こえ、自分より耳が良い。 『そういえば、翔馬は学校どうって?』  ノートを受け取った舞子は、ニコニコしながら手話で尋ねてくる。  翔馬と舞子は私を通じて知り合い、三人仲が良い。 『そろそろ部活紹介があるから楽しみって、言ってた。学校は楽しいみたい』 『へー、そうなんだ。隣の学校にいるって、不思議な感じだね』  聾学校のすぐ隣には、第一高校、という高校がある。私より一つ下の翔馬は、この四月に第一高校に入学した。  第一高校とは昔から関わりがあって、交流学級や、聾学校の生徒と一緒に部活を行う所もある。  しかし、人見知りが激しい自分は、一緒に部活をしようとはこれっぽっちも思わなかったし、交流学級も毎回気が引けていた。  とにかく自分に自信がなく、何でも消極的な所、受け入れてステップアップしたいと思っているのに、中々できるきっかけが見つからない。  いや、見つけようとしないのも、事実だった。  私はこの小さな世界から飛び出るのが、怖くてたまらなかったのだ。
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