第一章 『にき、一緒に踊ろう』

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 放課後、第一高校の門の前で集合しよう、と翔馬に言われた翌日。  私は嫌々舞子に事情を説明すると、案外乗り気であんぐり驚かされた。 『いいじゃん、行ってみようよ。翔馬の誘いならさ』  舞子は明るく元気で、難聴の難度も中度。難度を言い訳にするわけではないが、だからこそ自分より積極的になれるんだと羨んでいた。  難聴を理由に、舞子がネガティブなことを言っているのは聞いたことがなくて、そこを見習わないのは分かっているが、どうしても渋ってしまう自分がいる。  私は硬い殻を、中々破れないでいた。 『……私は、あまり行きたくない』  本音を零すと、舞子は両手で私の頬をムニムニと伸ばしてくる。 「いっ……」  難聴であっても声が出ないわけではなく、私の微かな声が響く。  発音の練習は、小さな頃からもう嫌になるくらいしていて、話せないわけではない。  ただ、自信がなく普段話さないで手話を使っているだけ。 『行ってみようよ』 『でも……』 『何かのきっかけになるかもしれないじゃん』 『何かって』
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