何も無い街

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ホームで電車を待つ。ホームには人工の光がこうこうと灯りっている。僕は思うのだけど、こういう人工の光が人の神経をすり減らしていくのだろう。人間は本質的には自然の一部であって、あまりに人工的なものに囲まれていると生命力みたいなものが失われるのだ。 地下鉄に乗って車内を見渡してみても、やはり乗客はみな何かにイライラしていた。あるいは魂が抜けてしまったような顔でスマホの画面を眺めていた。僕は座席に座って中吊り広告をぼんやりと眺めた。そこにはいろいろな写真があり、いろいろな文字があった。週刊誌の広告が芸能人のダブル不倫をセンセーショナルにスクープしていた。その横には最近流行りのダイエットが紹介されている。ピーナッツに含まれる成分が脂肪の燃焼を促してくれるらしい。それならさっき僕も食べた。明日には少し痩せているかもしれない。 でもどれだけ眺めてみても、やはり僕が求めているものは何一つ書かれていなかった。僕は諦めて眼を閉じ、座席に深くもたれかかった。結局、今日も僕は一人だった。そして今日も何処へもたどり着けなかった。相変わらず僕は何者でもなく、また何者かになれる気配も絶望的な程に感じなかった。 目を閉じても、僕の頭の中では沢山の僕が僕に対して悪態をついた。そして何人かの僕が、僕に愛想を尽かした。何かの手違いで線路に落ちてしまってもよかったのかもしれない。それなら僕があっと思った時にはすべてが終わったのかもしれない。でも何もかもは起きなかった。今までも起きなかったし、今日も起きなかった。そして今日も僕は誰もいない部屋へと帰るのだ。
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