何も無い街

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カウンターに座ってカクテルを注文した。モスコミュールだ。すっきりしていて飲みやすい。背の高い男のバーテンが僕の前にコースターを置き、その上に酒の入ったグラスを置いた。 僕はそれほど広くない薄暗い店内を見渡す。カウンターはわずか六席。二人がけのテーブル席は四つ。そこにいる女達をチラチラと覗き見るような感じで。 女は店内に三人いた。テーブル席に男のツレがいる女が二人。カウンターの端に酒を飲みながら先程の背の高いバーテンと話している女が一人。僕は彼女と反対側のカウンターの端の席いた。 女はバーテンと話すのに夢中で、僕の視線には全然気付いていないようだ。歳は同じくらいだろうか。隣の椅子に飾り気のない黒いバックを置き、その上に春物のトレンチコートがかけてある。仕事帰りなのかもしれない。顔はまぁそれほど美人というわけではないが、かといって不細工というわけでもない。特にこれと言った特徴もない、街を歩けば一日に何度かすれ違いそうなタイプの女だ。 話してみたら意外と気が合うかもしれない。彼女の中に可愛さも見いだせるかもしれない。そんなことを考えながらモスコミュールを飲んでいた。 この店で誰とも話さずに酒を飲んでいるのは僕一人だけだった。僕は完全に手持ち無沙汰だった。とりあえずモスコミュールのおかわりと一緒に、ナッツの小皿も頼んでみる。そしてポケットから煙草を取り出して、それに火を点けた。
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