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「あんた、どこから?」
「……ストーク・オン・トレント」
「イギリス人か、最近あっち大変らしいな……おれんとこもだけどよ」
「……」
エルサルバドル人の男は、トラックに同乗する長い金髪の男があまりしゃべらないので、これから自分たちに降りかかることに対しての不安からどうにか逃れようと手立てを考えている。
幌の隙間から見えた風景はどこもかしこも明らかな破壊の跡があったし、そうでなくともニューヨークの飛行場に降りてから鼻に突き刺さる死臭からは逃れようもなかった。結局は紛らわすしかない。あまりおしゃべりに乗り気ではない金髪の男に再度話しかける。
「で、おたくは何やらかしてここに来たのよ」
「……あんたこそ、どうして?」
「おれかい?つまんねーことさ。貧すりゃ鈍する、なんて言いえて妙だわな。辞書で”マヌケ”って引きゃ、このおれの名前、バステロ・ガチャって出てくらぁ……ハッ、おらぁ元々エルサルバドルの空軍にいたんだがよ……上官の収賄を偶然見つけてな、ゆすろうとして、逆にやられっちまったのさ……さぁ、話したんだからあんたも話せよ。どうしてここに?」
「…………殺し」
「!そうか……」
もちろん、バステロにも殺しの経験はある。しかし、それは軍人の仕事としてだ。しかし、相手はそうではないのだろう。
長髪の隙間から見える瞳はどこか遠くを、深淵を眺めているかのようにうつろだった。辛酸をなめてきた者が持つ特有の、人を遠ざける独特の孤独感が増し、バステロは一言もしゃべれなくなった。
トラックは二人を乗せて、道なき道を走り続ける。地獄を目指して。
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