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「それじゃ、取引きといこうか。この男と大神奏、おまえと交換てのはどうかな。もちろん、どっちを取ってもいい。俺を殺したいなら殺してもいい。その代わりおまえの大事なものは道連れにしてく」
得物を突きつけられ提示された条件に顔を上げた。
「榊を離せ。俺が行く」
迷いもなく告げて主が上着を脱いだ。
丸腰の主。
何も持ってないと証明してみせる。少なくともいつも身に着けているものは何一つ持ってない。
まるで、服従するかのよう…
「やめ、」
「榊、心配すんな。こんなのどうってことない」
やめろと叫んでも届かない。平然と近づいてきて得物を持った龍神会を背負う男の前に立った。
いきなり、
主が吹っ飛んで窓際に体を打ち付け崩れないよう踏みとどまった。
続けて蹴り飛ばされ飾り鏡に当たり割り砕けた破片が突き刺さる。
白いシャツが刺さった破片で染まってく。
赤く紅く―――
傷ついてく―――孤高な狼
他人に屈したりしない、 屈してはならないのに。
守るため、
自分を救い出すために傷ついていく。
これ以上耐えられない。
主が傷つくのを見るのは、自分が傷つくよりもはるかに。
「…バカだ、こんなこと」
「バカでいい…俺はこんな生き方しかできない」
もう顔をそむけたりしない。逃げたりしない。
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