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確かに、目の前に転がってる男を鏡の破片で突き刺した―――この手は血で汚れてる
それでも後悔はしない。守るべきものは守った。
若を抱き締めた。
この命をかけてもいいと思えた。
救われたのは自分の魂だから―――
これで、最後。
触れるのも、こうして見つめるのも。
「おまえは…温かいな」
「若」
「…どこにも行くなよ」
寄り掛かった体が熱い息を吐き出した。
こんなになるまで気づかなかった。
気づこうとしなかった…
ズルッ
若の体がずり下がってく。
「…若」
傷ついたその体にそっと寄り添った。
「…なあ、榊」
しばらくして揺れる肩から小さな声が聞こえた。
「…そばに、俺のそばにずっといてくれるか?」
聞こえるか聞こえないかの微かな声。
耳にしみるよう。
「…ええ、若のそばに。…ずっと」
「…ああ」
柔らかく触れた肩先に若が泣いたような気がした。
死ぬまで若のそばに―――
ずっと一生。
あなたのそばに―――
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