仏壇から

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 出て来たって言うよりかは生えてきたみたいだった。  黒い手が。ニューっと。  目を逸らそうとしたんだけど動けなかったよ。  金縛りとかとは違うと思うんだけど、とにかく目が離せなかった。  そしてね、もう一本黒い手が出て来た。  そのすぐ後に黒くて丸い物。  頭だって気付くのに少し時間がかかったよ。  そう。全身真っ黒な人が、御仏壇から這い出て来たの。    その人は、もがいてるみたいに御仏壇から床にまで這い出て来た。  そして分かった。  あの音の正体。  その黒い人が、這ってる音だった。  ズルズル。ザリザリ。  音を響かせながら床を這いずり回る黒い人。  ズルズル。ザリザリ。  床を引っ掻くみたいに、同じ場所をグルグル回りながら、ずーっと這いずり回ってる。  ズルズル。ザリザリ。ザラザラ。  ところで、なんでその人真っ黒なのか、分かる?  さっき火事の話してたから、それで?  違うんだな。  ズルズル、ザリザリ、ザラザラ。  その人ね、よく見たら、真っ黒が細かく動いてた。  這いずり回った後に、黒い砂粒みたいのが蠢いてた。  意味分かんない?つまりね。  ズルズルザリザリザラザラ。  真っ黒いの全部、虫だったんだ。  虫がたかってたの。その人。  全身に、真っ黒な虫が。  蠢いてたのは、それ。  ズルズルズルズルズルズルズルズルズルズルズルズルザリザリザリザリザリザリザリザリザリザリザリザリザリザリザリザリザラザラザラザラザラザラザラザラザラザラザラザラ。  まだ動いてる、まだもがいてる、私は目を離せない。  ズルズルズルズルズルズルズルズルズルズルズルズルザリザリザリザリザリザリザリザリザリザリザラザラザラザラザラザラザラザラザ、  ピタリと、黒い人は止まった。  そして、私の方にゆっくり、振り向く。  目が合った。  表情なんて分からない筈なのに、私には分かった。  私を睨んでた。  表情はとても、怒りに満ちていた。  
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