錯覚

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錯覚

 よくさ、布とか布団のシワが顔に見えたり、なんでもない物の影とかが人とか怪物の姿に見える事、ない?  私は子供の頃よくあったなぁ。  そんですごい怖かった。ただの錯覚なんだけどね。  怖いものは怖いよね。  私ね、ただの錯覚であって欲しいって事があってさ。  それも小学校低学年の頃。  あのオンボロアパートから引っ越して、まずまず綺麗なアパートに移り住んだ時の事。  そこはトイレに行くのに玄関の前を通らなくちゃならなくてね。  夜とかトイレ行くのに怖くてダッシュで行ってたっけ。  なんか玄関のすりガラスの扉の向こうに人が居るような気がしてさ。  もちろんそんなの居ないよ?  でも一度そう思ったら怖くて怖くて。  トイレを早く済ませて、ダッシュで帰ってきて布団に潜るのが恒例でね。  毎日そんな事してたなぁ。  だけど、ある日不気味な事が起きた。  その日も夜眠る前にトイレに行きたくなって、案の定ダッシュでトイレまで行ったんだ。  行く途中で玄関の方を見た。  そしたら、人が立っていた。そういう風に見えただけだと思いたいけど。  でもハッキリしてたしなぁ。  玄関の向こうに立っていたのは、多分背格好からして男の人。  スーツみたいの着ててね。  そこまで分かるのはその人が扉に密着してたから。  すりガラスの向こうに顔が見えそうなくらい。  その時夜の十時になろうとしていた。  そんな時間に、扉に密着して、直立不動で居るなんておかしいでしょ?  私は怖かったけど気のせいだと思う事にしてトイレに駆け込んだ。  そして用を済ませてそっとトイレの戸を開けて玄関を見てみた。  
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