第弐話 『彼岸の入』

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―1―  ……場所は果たして海である。 ただし困った事にどこの海やら検討が着かないのだ。 自分がどうやってここまで来たのか、そしてこの場所は何処だったのか、色々思い出そうと試みるがどうにも解らない。 電車で来たのか徒歩で来たのかそれすらも皆目検討が着かないのである。 丸で自分がチェスか何かの駒で盤の上にポンと置かれた様な……自己の意思とは無関係な得体の知れない力で遊ばれている様な……そんな不可思議な心持ちである。 天井を見上げると薄曇りの昼と言う事は解った。 普段は白い雲も薄い藍色と白に太陽が山吹色で彩色を施しており人間の手ではとても再現できそうにない繊細な美しさである。 ちら、と背後に目をやれば、年季の入っていそうな古めかしい旅館ともホテルとも着かない、いかにも観光地にありそうな建物がどん、と胸を張って立っており宿泊客らしき人がちらほらと出入りしている。 と、その時、頭の上を“轟”と音を立てて巨大な影が行き過ぎた。 ツン、と獣の匂いがしたので、その影の過ぎた方向に目をやると、本体が170cm程度、羽を含めた横幅が4mはありそうな巨大な鳥がぐるり、と旋回し、水飛沫をずわりとあげながら海へと着水した。 気付けば、同種の鳥が5~6羽は波のまにまに浮かび漂っている。 皆、全身が眩しく輝く様な白色で、胸元だけが美しい青か緑の上に口を開けた三日月形の模様がある。鷹や鷲に似た猛禽類の面構えをしていたが、何故か頭上を飛び去っていく時や着水の時に見えた足は鶴の様に長かった。(まぁ太さはかなりあったけれども)それでいて水に浮かぶのである。どうも奇妙だ。
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