第壱話 『鳴 祭』

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―2― 随分美味そうに煙草を吹かし、紙コップのビールを飲みながら、何やら楽しそうに談話している。 思わず声をかけた。 「おじさん!おじさんも来ていたんですか?!」 その声に彼らは振り向いた。 「おぉ、君か!」 僕が “おじさん”と呼んだ方の男性は、柔和そうな顔をほころばせて微笑んだ。 もう一人の男は、一瞬驚いた様な顔をして、僕をしげしげとみていたが、何も言わなかった。 「君の方こそ来ていたのか。……元気かい?」 「ええ、元気です。」 「のんちゃんは元気か?」 “のんちゃん”と言うのは僕が当時務めていた会社の社長のコトである。 ウチの社長も早いウチにご主人を亡くし女手一つで会社も家計もきりもりしている気丈な人だ。 おじさんも同じように早くに奥さんを亡くし、 男手一つで子育てと仕事を両立していた。 そんな同じ境遇のモノ同士のせいもあったのか、 ……その他にも家族愛にも似た温かな感情があったせいなのか、とても仲が良かった。 「ええ、でも、おじさんに会えないのをヒドク寂しがっていましたよ。」 私の答えを聞くと、そうか、そうか、と頷くと彼は言った。 「のんちゃんには寂しい想い、させたくなかったんだケドなぁ…」  僕はなんともいえない気持ちになって、少し高い場所に立つおじさんを見上げる。 ……と、おじさんの隣に居た人がなにやらおじさんの腕を肘でつついている。 おじさんはソコでハッとして、僕にいった。 「のんちゃんに伝えて」 一連の行動から時間が余りナイコトに気が付いて、 僕は「ハイ」と強く頷いた。 「元気でやれよ、って。俺は楽しくやってるよ、って。 だからのんちゃんも、楽しくやんなよ、って」 おじさんは、そう言って満面の笑みを浮かべた。 その笑顔はとてもやさしそうで、晴れやかだった。 今まで見たこともないような、凄く素敵な笑顔だった。 「さぁ、もう行きな。」 おじさんの隣に立っていた男の人が腕時計を見ながら言った。 「そろそろ時間になるからよぅ。」 「解りました。」 「帰り道、解るかよ?」 その言葉が終わるか終わらないかのウチにおじさん達の姿がどんどん遠くなっていく。 自分の意思ではナイ。勝手に体が動いている感じだ。 解ってるようだな、と二人は安堵したように小さく頷いた。 自分で走っているような…でも見えない何かに流されているような…そんな感覚だ。
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