第壱話 『鳴 祭』

5/6
前へ
/38ページ
次へ
―4― 正直、出勤してからこの話しを、社長にしようか・するまいか僕は迷っていた。 いつもの出勤路を相も変わらず自転車で進んでいく間も ずっとその事ばかり考えていた。 ……話すべきか・話さざるべきか…… 社長は以前から僕がこのテのカン…と言うか…そういう世界に縁があるコトを知っている人だったが、なにせ相手が相手、事が事である。 当然、軽々しく口にする話しではナイが故に、言い出し辛いし、流石に「人の死を茶化すな」と叱られでもするのではないかと内心おどおどしていた。 仕事場へついてから、奥の部屋へ入ると社長が座っていた。 「おはよう」 「おはようございます。社長」 「今コーヒー飲んでるの、付き合いなさいよ」 彼女はいつものおおらかな調子で言う。 ハイ、と僕は答えて、テーブルについた。 「昨日ね」 僕に入れてくれたコーヒーカップを置くと、窓の外へ彼女は目をやった。 空はあいにく灰色だった。 雲の流れが速い。 「サンちゃん、49日だったのよ」 僕は驚いて、思わず目を見開いた。 「早いよねぇ…なんだか居なくなったのがまだ信じられないのに」 もうそんなに経っていたんだ。 「今にもココへひょっこりやってきそうなのにねェ 」 ハハハ、と彼女は笑う。 きっと誰より辛いのに。 僕だったらどうだろう?そんな親友ともいえるべき人間が、ある日病気になって必死に闘ったにも拘らず、看病の甲斐無く、逝ってしまったら…? こんな風に気丈に振る舞えるのか?辛いのを隠して微笑むコトが出来るだろうか? そんな思考がぐるぐると渦を巻いて、昨晩のコトを言いあぐねていたら、彼女はボソリと小さな声でこう言った。 「サンちゃん…ちゃんと成仏できたのかねぇ…迷ってないといいんだけど…」 「社長!」 もう我慢の限界だった。
/38ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加