第壱話 『鳴 祭』

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―5― 「わッ、なによ?突然ッ!びっくりするじゃない!」 「僕…昨夜…おじさんに遇いましたッ!!!」 「なんですって!?」 その言葉を聞いた途端、社長は椅子から身を乗り出していた。 「で!?サンちゃんどうしてたッ!?」 僕は昨夜起こった事の一部始終を全て話した。 彼女は真剣なまなざしで、僕の話に聴き入っている。 最後におじさんから言われたコトを伝えると、 彼女の目から大粒の涙が零れだした。 ――……そぅ…じゃぁちゃんと成仏できそうなのねぇ…。 声を詰まらせながら、エプロンの端で眼をぬぐうと彼女は笑った。 その笑顔は、昨夜のおじさんと同じように素敵なモノだった。 ――……しかし、なんで祭りだったのでしょうか? 僕の疑問に彼女は答えた。 ――……良くは解らないけど、送り火みたいなモノなのかしらねぇ… あの世へ導く為の先導みたいなモノじゃナイかしら? ああ…、と僕は頷く。 ソコでチャイムが鳴り響き、お客が幾人か入ってきた。 +++++++++++ 夕方、帰り道。 案の定、ポツポツと雨が降り始めた。 自転車のペダルを少し早めに回転させながら僕はボンヤリ考えていた。 あの祭りの人々は、あの世へ旅立つ人々を先導する為のモノだったのかな。 まぁ祭自体、本来そういう役目を持つ行事だしなぁ。 だとしたら、皆のあの晴れやかな笑顔…… アレはきっとそれぞれに背負っていた辛く苦しい闘いを終えた、全ての痛みや悩み、 全てのしがらみから解放された人々にしか出来ない笑顔だったのかなぁ……。 そうじゃなければあんな底抜けに明るくは成れないもの…。 自分もいつか、あの祭りの行列に無事に加われる時が来るのだろうか? あんな風に何もかも忘れて、 楽しそうに極上の笑みを浮かべられる時が来るのだろうか? ……うん、その前に生きているウチに、最高のほほえみを 一度くらいはしてみたい。 大好きな 人と。 雨が少しだけ強くなってきた。 社長の泣き足りない分、代わりに泣いてるのかな? 僕は空を見上げて、溜息をついた。 丸でそれに応えるように、小さい鳥がどこか遠くで鳴いた。
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