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「ねえ知ってる? あの噂! 街の掃除屋の!」
「変態スイーパーでしょ!?」
「どんな相手でも一瞬で倒すんだって! しかも変態スイーパーに倒された相手は、以後女に手を出せなくなるとか!」
「これでレイプとかなくなればいいよねー」
朝の爽やかな、学校への登校時間。見知らぬ学校の制服を着た女生徒が、可憐な笑い声と共に歩いて行く。
その横を、ジョギングを兼ねて走り去っていく、黒髪の男子高校生が一人。
「ふあ……」
「おーい」
欠伸を手のひらで隠した男子高校生を、ふと呼び止める声があった。
クラスメイトに呼び止められて、男子高校生――総寺野和樹は振り返る。
「おはよう」
「はよっ、和樹。眠そうだな」
「昨夜少し遅くてな。だがそれでも、朝俺(息子)はいつも元気だ」
「そうかそうか」
クラスメイトと合流したことにより、総寺野和樹は走るのをやめて、歩調を彼に合わせるべく歩くことにする。
「そういえば昨夜といえば、また出たらしいな、変態スイーパー」
「……そうらしいな」
クラスメイトが興奮したように話す。このご時世に正義の味方、なんてところに感動しているらしく、最近彼はいつも変態スイーパーの話ばかり。そして話の締めはいつもこうだ。
「すげーよなあ。正義の味方だって噂だし。女の子のために悪い奴らを完膚なきまでに叩きのめして、尚且つこれ以上女の子に手出しさせなくなるなんて。女のために戦うなんて男の中の男だ!」
総寺野和樹は、微笑むだけで何も答えない。
実際の変態スイーパーが、女のために戦っているわけではないのだと。ただ男に対して劣情を催すその感情を、街の平和と称して解消しているのだと、話すべきではないだろう。
変態スイーパーにやられた彼らが女の子に手出しできなくなるのは、変態スイーパーによって新しい世界を開かざるを得なくなった結果だとも。
キラキラした瞳のクラスメイトの夢を、壊してはいけない。
「男の中の男、か。それは嬉しいな」
総寺野和樹は空を仰いで、爽やかな朝の空気を吸い込んだ。
――そして今夜も、変態スイーパーの戦いは、続く。
fin
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