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耳を疑った。 妹の結婚相手というのは、私がお見合いをするはずだった相手だというのだ。 聞けば、遠い親戚に、私と妹、二人分の縁談を持ちかけられていたが、先に届いたのは私の相手の釣書で、それを妹の相手のものだと勘違いしたらしい。 当事者の私に無断で縁談などを進めていた母に呆れたが、同時に仄暗い感情が胸にこみあげてきた。ふつふつと、はらわたが煮え繰り返るようなこの感覚は久しぶりだ。 縁談が流れたことが腹立たしいわけじゃない。今のところ恋人はいないものの、まだあと数年は二十代だ。結婚に焦りはない。 怒りは、相変わらず自己中心的な妹に向けてのものだった。大人になったこの期に及んでもまだ私の取り分を奪う妹が、無性に憎くなった。 ケーキの大きいほうを選ぶのも、人形をなかなか貸してくれないのも、わがままな性格のせいだと思ってきた。 けれど、結婚という一大イベントにまで手を出してくるとなると、これはもう悪意を感じざるを得ない。勘違いだったと気づいた時点で身を引くか、よしんば相手に会って気に入ったとしても私にことわりの一報があって然るべきだ。 どこまで無神経で、狡いのだろう。 たしかに、実際に付き合っている彼氏を奪われたわけではないのだから、目くじらを立てる必要はないのかもしれない。 今までに妹に掠め取られた私の取り分も、ひとつひとつは小さなものだったり些細なことだったりするかもしれない。 それでも、塵も積もれば山となる。 はんぶんこで私が損をしたすべてのものやことを積み重ねたら、きっとウェディングケーキ一台分くらいにはなるはずだ。 こんなことが、許されていいはずがない。 彼女は、報いを受けるべきだ。 私は電話を切ろうとする母を呼び止め、妹の結婚相手の住所を訊ねた。結婚式でのサプライズ演出について相談したいのだと言うと、母は訝ることもなく教えてくれた。 昼休みが終わり、定時のチャイムが鳴り、午後十時を過ぎた。
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