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「ふふっ」
ややあって胸元に落ちてきたのは、厚い掌ではなく、笑みを含んだ吐息だった。
怪訝に思って目を開けると、彼と正面から目が合った。
鼻白んだが、奥歯を噛んで動揺を殺す。
「どうしたの……?」
「え?なんか、こういうのもいいなって思って」
「こういうの?」
「親子丼。いや、姉妹丼か」
無邪気に言って、彼は微笑む。
サーッと、背筋に冷たいものが走った。
この男は、私が妹ではないことを知っている。
私が妹として抱かれようとしていることを理解しているし、そのうえで私を抱こうとしているのだ。
おそらくは、終始の落ち着きぶりからして、はじめからわかっていたのだろう。
どうして、と考えるまでもなかった。
私はいつものいでたち――派手好きな妹が見向きもしないような、地味なグレーのスーツ姿だ。髪は黒くてぼさぼさだし、爪は短く何も塗っていない。
双子といえど、顔が同じなだけの、まったくの別人だった。
そんな当たり前のことを失念していたのは、ここに至るまでの数時間、猥褻写真作成に熱中していたからだ。
自分の顔を華やかに加工し、妹として卑猥な世界に溶け込んでいるうちに、自分の姿を完全に忘れ去ってしまっていた。
結婚相手の彼は、双子の姉がいることくらい妹から聞いているはずだ。
その姉だと、最初からばれていたのだ。
妹になりきってうまく喋れていると思い込んでいたが、大間違いだった。
彼は無口だから相槌に専念していたのではなく、馬鹿な私をただ面白がって観察していたのだろう。
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