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夜半の雨に僕は溶けゆく
夜の帳が下りる頃、街に一つ、また一つと明かりが灯る。
人々は嬉々として帰宅路を歩き、自分の居場所へと向かう。
そんな中、俺はいつも通りあてもなく、暗闇へとただ足を進める。
次第に色を失っていく空を見上げると、なんだか自分を映し出しているようで心が落ち着いた。
すれ違った人が言っていた。
今夜は雨が降るらしい。
でも、傘は持っていない。持たない。持てない。
幸い、しとしとと静かに優しく降り注ぐ雨も、一斉に襲いかかる大きな雨粒も嫌いではない。
むしろ、暗闇の中全て洗い流すように降り注ぐ雨に存在すら溶けていきそうになる、あの感覚はたまらなく好きだったりする。
辺りが雨が降る前の独特の湿った空気に包まれる。
公園の木の下でゆっくりと目を閉じた。
穏やかに空が泣き始める。
いっそのこと、本当に全部洗い流してくれたら。
「君、一人?」
その声にそっと瞼を開くと、目の前の人物は差していた青藤色の傘を半分どうぞと俺の方に傾けた。
半分の傘に阻まれ、雨粒は全く落ちてこなくなった。
俺は情けが一番嫌いだ。
こう言う奴はだいたい自分の善意に酔っているだけで、すぐにその善意に飽きる。
今まで見てきた奴らもみんなそうだった。
「ここじゃ風邪ひいちゃうから、おいで」
そう言って、そいつは手を伸ばした。
情けは嫌いだ。
だが、俺に、選択権はない。
青藤色の傘に雨粒が音を立てて落ちている。
夜中にかけて雨足は強くなるだろう。
俺に選択権はない。
俺は、ただの猫なのだから。
ただ、ただ、こいつの腕の中で、
暖かな幸せが続くように祈ることしかできない。
安定感がないそいつの腕の中で、再びゆっくりと目を閉じる。
明日、夜の帳が下りる頃、俺はどこで何をしているのだろうか。
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