快楽の恩恵

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方丈まで行き当たると、彼女は足元に手をかざし、履物を脱ぐのだと私に教えてくれました。 お寺の本堂なら何度かあがる機会もありましたが、こんな所に来るのは初めてです。 私は緊張していましたが、彼女は心配させないように、いつもより優しく接してくれていたように思います。 「失礼いたします」 いつものように丁寧にお辞儀をすると、住職様は座ったままくるりとこちらへ向きなおしました。 お互いに名乗った後、お忙しいでしょうからと話題は本題に入ります。 「お仕事が順調だと伺いましたが…」 住職様の表情は決して穏やかなものではありません。 「はい、まるでモテ期のように、新規様に愛されております」 当時は疑問に思いませんでしたが、時には深夜までお酒のお供をし、髪を撫でながら寝かしつける夜などもありました。
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