【フナナちん】

1/1
0人が本棚に入れています
本棚に追加
/2ページ

【フナナちん】

【材料】 鶏肉…20グラム 白菜…適当 氷…30kg 太陽光のあたった水…2週間あたった物 三丁目の与島さん…年齢36が好ましい ーーー… ーー… 放課後また田中陽菜さんはわけのわからないレシピ本を読んでいる それはそれはもう熱心に 目は夕日が反射したメガネのせいで見えないがきっと未だ食べぬ『食べ物』に輝かせているのだろう 実際、たまに口の端からよだれが垂れている 「田中くんまた変なものを読んでいるのか? 一応言っておくがそのレシピ本に載ってる料理の大半は材料に結構人が入っているから作ろうとか思うなよ」 僕、伊達輝夜はそんな田中陽菜に呆れながらも 彼女にはその食欲のために殺人とかしないでほしい そう思って話しかけたら 首が凄い勢いで僕に向く 話しかけないほうが良かったと後悔する 「伊達くん!このレシピ本読んでたの!?」 悔しいが僕、伊達輝夜は田中陽菜に惚れてしまったがために彼女の愛読しているレシピ本のシリーズを学校の購買で頼み込んで初版から新刊まで買い込み頭に叩き込んだ 勉強が得意な僕でも内容が内容のせいで頭に入らず正直苦戦した ーこれは小学の頃に中学受験で初めて壁にぶち当たった時以来である 「…あ、…あぁ、一応、勉学の参考に読んでいる」 何の参考だ!?なんの参考にもならねぇよ!!! と、自分に対して突っ込みを入れながらメガネを押し上げる僕、 そんな内心の僕に気づかず陽菜はテンションがものすごく上がっている いつもは淡々と話す彼女がここまで感情的なのは初めてなので少しときめいてしまった。 「今回のこの号にはなんとっ!なんとっっ!!!【フナナちん】だけじゃなくて【スプェットパップェ】とか【モな゙ネナテェマェッ】とか書いてるんだ!! すごいよね!!私!すごく感動しちゃってね!! あぁ!!特にこの今回のイチオシの【ナフェットリェッェ・パェマットッリァギェ】がすごくて…!!!!!!」 「うん、少し落ちつこうか」 よく発音できるな…そう思いながら説得を続けることにした 今言った料理は全部一品つくる際の材料に50人規模で人を使うのでやめてほしい 黒魔術かなにかかな!? ただの殺人じゃ飽き足らず大量殺人に手を伸ばしかねないので全力で止めたい とりあえず生徒会の会議から戻る際に自販機で買ったイチゴオレをあげ ついでに昨日焼いたチョコタルトも渡しておく 陽菜は少し驚いた顔をして僕とそれらを交互に見てから礼を言ってチョコタルトを口に運ぶ 味は何度も確認したし 先ほど生徒会にも振る舞って大変好評だったので問題はないはずだ 家族と友人は突然菓子作りをはじめた僕にあの生粋生真面目ガリ勉鉄仮面野郎の輝夜にとうとう春が来たとめちゃくちゃ喜ばれた うるせぇ!! 「【モガロゴラのココア煮込み】の味に近くてすごく美味しい!!」 そう言って彼女は大層喜んだ その料理はレシピ本の初版に載っていたのを思い出す …材料は相変わらずの代物だ 嬉しい半分複雑な心境になりながらも好きな子に褒められたのは事実なわけだから喜んでおくことにした 「…それはそうと田中くん」 「なに?伊達くん」 とりあえず人を使ったレシピは挑戦しないよう約束させてから僕はメガネをお仕上げてから次の話を切り出す 「国語の城屋先生からの伝言で君だけ読書感想文が提出されていないと聞いたのだが珍しいな、どうした?」 「げ!」 陽菜が苦々しく声を出す 今日は随分と彼女にしては珍しいことが連続で起こる 元々彼女は勉強もかなりできるほうで成績も校内では10位内に入る こういった宿題はきっちり期限を守るほうだ そんな彼女が今回初めて期限が過ぎても提出していなかった為、城屋先生も心配していた ちょうど今話しているので話題として口にした次第である 「えっと、8割方出来ているんだけど…ちょっと…問題があって…」 なぜか歯切れ悪く答える陽菜さん 最後の文章がどうも上手くいかないのだろう 僕はとりあえず手助けも含め提案することにする 「ふむ?じゃあ僕も手伝うからよかったら見せてくれないか?」 「…………うん」 彼女は少し不安そうな顔をしながら読書感想文を鞄から出して僕に差し出した 思ったよりも長文なのか作文用紙は上限ギリギリである 僕は陽菜からそれを受け取り目を通す 彼女の文字はとても美しかった ーそして うん、これは提出できないなと理解した なんせ内容が今さきほど話した 今回、新刊として出たあの『レシピ本』だったからである 内容が内容のため頭が痛くなる この学校では読書感想文は公開される そしてあの『レシピ本』は黒魔術の如くである 絶対に出してはならない 出したらやばいことになる 絶対に三者面談確定な内容だった、 「えっと…すごく感動しちゃってね…これしか無いって思って、勢いで書いちゃったんだ… …でも、提出日にあらためて読んだら あ、これ出したら駄目だって気づいちゃって…その…ごめんなさい………」 僕が眉間に手を当てていると陽菜は珍しく申し訳無さそうな顔である というか自覚あったんだ…と、思ってしまった。 確かに今までこの『レシピ本』の話は僕以外で話しているのは聞いたことがない とりあえず二人で悩んだ末に一つの答えに至る 「「書き直そう」」 『書いた感想文を無くしてしまった』 そう伝えもう一度作文用紙をもらった ー城屋先生にはもうしばらく待ってもらおう
/2ページ

最初のコメントを投稿しよう!