ユクモノ

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ユクモノ

何年も前の話 事務員をしている私の席は、ちょうどトラックの搬入口を真正面にしていて、仕事中は終始外の様子が見れる。 パートさんの一人が「今日は1日晴れだって」と言ったが、まさにその通りの快晴。 午後2時頃 「雨だ…」 ふと顔をあげた際、銀色の雨が降っているのが見えた。 「雨なんて降ってないよ」 隣の席に座る先輩が首を傾げる。今日は1日晴れだってば、と先輩の後ろの席にいる係長が笑った。 「あー、じゃあ乱視のせいですね」 私の右目は乱視で、ものを見るときチカチカ瞬いて見えることがある。きっとそのせいだ。私は伝票入力の作業に戻った。 それから30分程たっただろうか。 また、雨が見えた。 やっぱり雨だよなぁ…そう首を傾げながら目を細めていると、降り注ぐ雨の中にやたらと大きく白い物がひとつ、またひとつと混ざり始めた。 雪?雹?なんだありゃ? どっちにせよ異常気象にも程がある。 ねぇ、見てくださいよ そう言おうと口を開いた瞬間だった。 ずべちゃっ 視界の中を、ボール大はあろうかという白い塊が降り落ちた。 え? 思わず口を開くのを止めて凝視する。 気づけば先程の細い雨と入れ替わりに、半透明で白い、ぶよぶよとしたものが、あとからあとから降り落ちていた。 なんだあれ… ぶよぶよとしたものは降り落ちると一瞬抵抗するかのように震え、アスファルトに沈んでいく。 ぽかん、と飲まれるように。そのうち人の頭ほどもある大きさのものまでが混ざり始め、どよどよと、降り続いた。 溶けながら滴らせ続ける、何かが居る。 トラックの搬入口の高さを越える遥か上から、訳の分からない物が降る。 前述したが、私は霊の類はほとんど見えない。分かるだけだ。 しかし霊でも死者でもない、なんだか分からないものは昔から見ることがあった。 それでもこんな形状の物は見たことがないし、溶けながら進むものなんて、生憎ナウシカの巨神兵くらいしか例えるものが浮かばない。 見つめている数分のうちに、人の頭はボール大に戻り、次には雨の細さになるり、最後には止んだ。 「雨雲でも通ったのよ」 また別のパートさんがいった。私が外を凝視しているのに気づいたのだろう。 「だって少し暗かったもの」 明るくなった日差しに、乾いたアスファルトの白。 「そうですね」 確かにそうだ 「多分【何か】…通ったのでしょう」 そんな、話
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