走る

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走る

木造校舎に私は立っている。私はぼんやりと『またこの夢か』と頭の端で考えながら。 昔から木造校舎を逃げる悪夢を見るのだ。 近眼で乱視の役に立たない私の眼には唯一 【夜目が効く】 という長所があった。 「…?」 暗闇に浮かびだした風景に私は辺りを見回した。 私がよく見る悪夢の木造校舎と違う。 こんなに古くなかったはずだ。こんなに黒くなかったはずだ。もっと真新しくて… 壁に止められたプリントが生々しい。煤けて黒くなった板目が、暗闇に浮かぶ。 逃げなければならない 私は走り出した。場所は三階。何故だか分からないが三階に間違いはなかった。低い階段を駆け降りながら 『小学校なんだな』 と冷静な自分がいる。 手摺を掴み遠心力で力任せに踊り場を曲がる。 一瞬、渡り廊下が眼に入る。渡るべきか… 目に写ったのはいかにも重たげな鉄扉 開くのはタイムロスだ。 走る走る走る 裏庭に面した廊下から、飛び出して、校庭を斜めに走る 校門の側に車が一台、私の白いアルト。そこに向かい、なお走る その時やけに明るい窓が目についた。 一階の校庭に面した窓が明るい。その光の中で大人の影がひとつ。腕を曲げて、上下に揺れている。 職員室だろうか。 校舎の中は真っ暗だったと思ったのに、先生がいたのか。 悪夢だと思い込んで走ったが実際は只の夢だったのか。 軽く安堵し車に乗り込む。 さて、この夢からどう覚めようか そんなことを考えながらも、ついクセで携帯を開いた。 画面がいやに明るい。 パァッっと、画面を越えて真っ白に辺りを満たす パチリ、と眼が開いた。 目の前でくの字に折れた携帯が迷惑メール受信にチカチカと点滅している。この光が瞼を透かして、私を起こしたようだった。 たまには、迷惑メールも役に立つものだ。 二日後 仕事中に『○○の木造校舎が…』という言葉が耳に入った。夢を思い出し、聞き耳をたてる 【知ってる?昔、校庭で焼身自殺があったんだって】 カチリ、とパズルが組上がったかのように感じた。 校庭に面したあの明るい窓は、中が明るいんじゃなくて 窓に映った、己の… 否、考えすぎだ。 夢なんて大概、矛盾まみれで説明がつかないものだ。 中が暗くて、外に出ていたら明るかった。それくらい夢ならなんの不自然もない。 【昔は公開されてたけど】 ああ、きっと 【渡り廊下、古くて危ないからそこだけ鉄の扉なんだってね】 きっとこれも、偶然だ
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