4人が本棚に入れています
本棚に追加
絵画の夢
大学時代愛知県に住んでいた私は、その日も愛知県在住の友人Aと丸一日遊び回り、宿へと向かった
「なぁ、これ『ホテル』か?」
私は思わず隣のAに問う。旅行経験の少ない私は、宿の手配を彼女に任せていた。目の前には、古い民家に似た建物
「ホテルというより旅館だね、それをビジネスホテルにした感じ。じゃらんに乗ってたし、レビューも悪くないし…まぁ古い分安いんだ」
というのが彼女の答えで、まぁレビューがいいなら大丈夫か、と私は歩を進めた。確かに古いが部屋は広い。夜まで騒いで、遅く寝た
そして
夢を、見た
灰色の壁に一枚、絵がかけられている。鉛色の額縁に、なんだかよく分からないぐしゃぐしゃの油絵。恐らく…風景画
色合いはミレーの『落ち穂ひろい』に似ていたが、くすんだ色が混ざりあってなんだかよく分からない
赤いような空に描き付けられた、裂け目に似た暗がり。灰色から黒に、裂け目のように描かれた暗がりが、見ていて嫌な気分になる
そもそもここは何処なんだ?
部屋はわずかな明かりの中で、壁も床も灰色になり酷くのっぺりとしていて無機質だった。影すら、ない
ただ、私と絵画だけがある
のっぺりとしていて無機質で…まるで塗りつぶしたかのような灰色の…
塗りつぶしたかのような
塗りつぶしたかのような?
私はハッとして振り返った。絵画の空の塗りつぶされたかのような灰色の裂け目。別に変わった様子は無かったが、しかし私は確信した
『これは顔だ』
目の前にある絵画から目が離せない
『しまった、眼があった』
と
「ねぇ、用意できた?」
気づくと、私は既に明るいホテルの部屋の中で、自分のカバンを手にして座っていた。視界の端にラピスラズリのブレスレットが映る。ああ、そうだ。ホテルの雰囲気が何だか良くなかったから、寝る前に外して入り口に置いたんだ。怖いものが入ってこないようにって
背中越しに友人がカバンを占める音がする。
私はいつ布団を畳んだんだっけ。ああ、言わなきゃ。なんか変な夢を見たんだよ、あれはただの夢じゃないんだ。きっと何かある。オカルト好きなお前ならきっと喜ぶような話だ
そんな風に思いながら、何故自分の口は開かないのだろうとわずかな疑念を覚えた時だった。
ガチャリと部屋の戸が空いて、ヌルリと戸から顔だけ出して女性がこちらを覗いた。
『…お客様…』
ホテルの人だろうか。なんだろう、チェックアウトの時間かな
『お連れ様は…いかがなさいました?』
最初のコメントを投稿しよう!