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なにを…言ってるのだろう
この部屋に泊まったのは、私と友人だけだ。そして二人とも今ココにいる。
『お連れ様』とは、誰のことだ?誰だ?誰のことだ?
うまく回らない頭の中でパニックを起こす。誰だ、そのもう一人の、居ない誰かは誰なんだ!?
その時、鞄を見詰めたまま俯いた友人が、スゥッっと手を挙げ廊下を指差した。
「…あっちに、行きました」
人に話し掛けているというのに、顔を伏せたまま淡々とAが呟く
「今行けば、追い付くでしょう」
驚きに息を飲む。
何を言っているんだ、誰を指しているんだ。私はここにいる!誰だ!それは誰だ!?
狼狽えた心がわんわんと叫んでいるのに、言葉にならず私はさらに混乱する
「そうですか…」
そんな私の言葉など頭にないかのように、ドアから顔だけを覗かせた女性は、抑揚の無い声で呟くと
「じゃあ、追わなきゃ…」
と言葉を接いで、ヌルリと這うようにドアの向こうに引っ込んだ。
その瞬間、眼が覚めた。
夢、だったのだ。今までの全てが。
ぼんやりと明るい夜明けの天井が目の前にある。
突然の出来事に対応できず、一つ一つ噛み締めて理解していた時に、ピリピリと痺れた自分の指先に気付く。
痺れは指先を這い上がり背中を締め付け動きを奪う。
金縛りだ
同時に冷えきった気配がゆっくりと歩んでくる気配に目を見開いた。
ギシィッ、ギシィッ
自分の足元から頭上に向けて進む足音。
物理的な音ではない。しかし確かな存在感を主張して、音だけを軋ませ見えない歩みが進む。
私の体の脇を足が進むごとに、引っ張られた布団につられ体が傾いた。
私の足元を通り、胴の横を過ぎ、そしてその足が私の肩を踏み抜いた
「……っ!!?」
幸か不幸か、金縛りに支配された喉から悲鳴は出なかった
足音は気付かずに、相変わらず物理的でない音を響かせてギシィッ、ギシィッと真っ直ぐに歩いて遠退いた
しかし相変わらず金縛りで体は軋み、踏み抜かれた肩は冷えきって、全身がひび割れるような痺れが広がる。
その痺れに沿って冷たい水が流れ込むように体が冷えていった
声を出そうにも声が出ない。その時丁度寝返りを打つ友人の姿が視界に入った。
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