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しめた!起きてる!
動かない口で必死に声を揚げる。私の様子に気付いたのかAがこちらを見た
「A…たすけ、て」
弱い朝日を背景に、困惑したようなAが身を乗り出す。
「私の、手…引いて」
何を言ってるんだ、と半笑いのようなAだったが、私の手をつかんだとたん表情が一変した
「私をここから…動かして!!」
私が叫ぶのと、彼女が私の手を力一杯引くのはほぼ同時であった
「…と、いうわけだ」
ホテルの一階で、朝食の塩鮭をつつきながら、左腕をだらりと足らして私はそう締めくくった
「踏み抜かれたのが左肩でよかった、ご飯食べれるから」
腕は、びりびりと麻痺したかのように痺れ、最初こそまるで動かなかったものの、時間が経つとともに回復して、その時には既にダルいくらいで
少なくとも、笑い話にできる程度には回復していた。
「でも私驚いたんだよ
だっていつもお前の手は暖かすぎるくらいなのに」
オカルト好きな友人は気味悪がるでもなく
「助けてって言われた時、氷みたいに冷たかったんだもの」
と、笑ったが、私はこれには少々、肝が冷えた。
食事を終え、部屋に帰る前に、もしかしたらホテル内にその絵があるのではないか…と探すと
それは驚く程簡単に見つかった
建物の構造上、一度も使わなかった廊下に、その油絵は掛かっていた。
壁を含む回りの景色は、全く違ったが
「この絵?」
友人が絵画を見上げる
「まずいようには感じないけど」
友人の問いに私は頷く
「あー…この絵だこの絵。だけど額縁の色が違うや。夢の中では鈍色だったのに、これは金だ」
アンティークに見せかけた、安っぽい金
「それに、空の色…灰色だったのに」
目の前の絵画の空は、薄暗いオレンジ色をしていた。夢の中で見た灰色の空も、暗い裂け目も、そこにはなく
見詰められたと思う程の顔も、気配1つも感じなかった
「でも、この絵だ」
「この絵だろうね」
Aの声に振り向くと、彼女は天井を指差して言った
「だってココ、うちらの部屋の真下、さらに言えば…お前が寝ていた真下じゃない?」
話は、ここまでである
私はこの期三日間程、肩の痛みに苛まれたが、疲れからくる金縛りと悪夢の一致…としてしまえばそれまでの話である
思うに、あれは『絵画の夢』だったのではないかと思う。
私はうっかり、絵画の夢に踏み込んで…そのキャストに組み込まれてしまったのだ、と
なんとなく…そう思うのである
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