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「12分って書いてあるけど結構歩いた気がする。確か眼鏡屋の隣とか。あぁ、ここだわ」
一人ぶつぶつ呟きながら最寄りの駅から徒歩でやって来た桑原仁美は、車が10台置けるであろうか、店の駐車場を横切った。それから入り口の傍にある小さな横文字看板(water lily)をチラッと眺め白いハイヒールで、「コツ、コツ」階段を上り、少し金色が剥げた縦長の取っ手を握るとぐっと手前に引いた。木目調のドアは見かけより軽く、「チリン、チリン」と、心地よいベルを鳴らした。実はこの店、一般的に言う喫茶店である。仁美はドアの閉まりを確かめてから一歩前へ進むと、広々した室内空間を見渡した。レトロのお洒落な家具と予想以上の客数に感心した。
「へえ。いい感じの店ね」仁美は店員を待った。
「いらっしゃいませ」はきはきした声だ。白いブラウスに黒のミニスカート。身長170cm程のスラリとした女性店員である。
「知り合いと待ち合わせなんですが、まだ見えてないのです」
仁美は改めて携帯電話を確認した。
「畏まりました。では中でお待ちください」
仁美は二人掛けのテーブルへ案内され静かに腰掛けた。すると携帯が振え、「今着きましたから」と、メールが入り、間もなく彼女と再会した。名は笹木舞子と言う。舞子は仁美より3歳年下で彼此10年以上前の話だが、アルバイト先の弁当屋で働いていた。二人はそこで顔見知りになった。話はそれだけではない。舞子は仁美と偶然同じ大学へ通い、そのうえ同じ県の出身だったから妙に親しくなった、というわけだ。
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