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「さて、私にはわかりかねますが……。兎にも角にも、稀にあなたがご経験なされたことが起きるようですよ」
「噂のようなものがある、ということですか」
「それにしても、あなたは運が良かった」
「運、ですか?」
「ええ、しっかりここへ戻ってこられた。話だと、そのまま向こうに行って帰れなくなる場合もあるのです」
老紳士はそう言って、再び停車している地下鉄へと乗り込んだ。
「そう、この私のようにね。ははは、すっかり迷ってしまった」
笑う老紳士と、そこにあった地下鉄の姿が炎のように揺らめいた。
「地下鉄に乗って、遠く知らぬどこかに行きたいと願うなら、またお会いしましょう!」
夢であったのか、どうなのかは分からない。だがそれは確かにそこにあって、今目の前から消え失せた。
俺は何度も振り返りながら、人の往来する街へ、自分の世界へ戻っていった。
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