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ああ、今はそんなところか。まだまだ、どこへなりとも行こうじゃないか。
一度止まると、また地下鉄は動き始める。僅かな証明の明かりが、暗闇を照らしている。
だが、一度証明が途切れて完全な暗闇の中を通り過ぎていった。さして気には留めなかったものの、視線を車内に向ければ、客がさっきの老紳士しかいない。
さっき止まったというのに、誰も乗ってこなかったのか? 珍しい。今日は随分と客がいないようだ。
「次は、昭和、昭和です」
昭和? そんな駅あっただろうか。いやまて、神奈川にそんな駅があったような……。さっき赤坂って言ってたのに。東京から出たのか? いやいやそんな馬鹿な。俺の聞き間違いだろう。
駅で停車すると、人が入ってきた。スーツを着ているが、どこか普通のスーツと違う。手には新聞を持っているが、奥へと進むその男の新聞が少し見えた。
英米だの爆撃だのという文字が見えたが、奇妙なのは記事がカタカナ中心で書かれていることだった。ちらっとだったので内容はよくわからないが、あんな読みづらそうな新聞があるのか?
まるで、それこそ昭和初期だとか、文を右から読む時代の文体のようにも見えたが……。
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