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「人生も折り返しだな」  互いに四十。残りの人生は半分くらいのものだろう。不意にそんな考えが頭の隅を掠める。 「うそ。私、まだ三分の一くらいの気持ちでいた」 「百二十歳まで生きるつもりかよ」 「うん、そのつもり」  このちっぽけな身体と心のどこにそんな力があるのだろう。彼女は胸を張ってこの辛い人生を百二十まで生きると言う。  逞しすぎる彼女から引き受けた買い物袋を、俺は後部座席へと放り込んだ。ドアを閉めて顔を上げると、彼女は助手席のドアに凭れるようにして立って、残念がったはずの半月を眺めている。俺も彼女につられるように見上げれば、薄雲の隙間で輝く片割れ月はこんな夜でも美しい。 「ねぇ、大ちゃん。これからの人生は全部二人でいられるね」  彼女の言葉には、少しの悲壮感と有り余る幸福感が詰め込まれていた。 「当たり前だろう?ほら、早く乗って。帰って安静にしよう。大事にしないと百二十まで生きられないぞ」 「あはは、そうだね」  満面の笑みをおくってくれた彼女に、せめて『愛している』の一言くらい伝えてみようか。ロマンチストではない俺にそんな想いを抱かせたのは、空に輝く片割れの月。 「なぁ、智子」 「何?」 「……いや、やっぱりいいや」  俺は勝手に一人で照れながら、丸いハンドルに手をかけた。隣に座る彼女の笑顔に、俺の人生は満ち足りている。
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