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「今夜は半月かぁ」  近所の大型スーパーから駐車場に停めた車までたった数十秒のこの距離を、二人で並んで歩くのは一体何度目のことだろう。チェックの買い物袋は彼女のお気に入り。それをブラブラと揺らし、今夜も彼女は空を見上げている。秋の夜風は心地の良い温度で二人の間を通り抜け、もはや当たり前のものになった俺の目に映る風景を優しく撫でて去って行く。 「智子、ちゃんと前見て歩けよ」 「はいはい。大ちゃんは心配性ね」  四十になって大ちゃんと呼ばれるのは気恥ずかしさが拭えない。流石に彼女も同じようで、人前では大輔さんと呼んでいる。子供がいない俺たちは、互いをお父さん、お母さんと呼び合う夫婦の感覚が未だにわからなかった。 「ほら、荷物貸せ」  強引に彼女の手から買い物袋を取り上げようと手を伸ばす。   『女に荷物を持たせるなんて考えられない』  出会った頃に俺が格好をつけたくて言った一言が、どうやら彼女は気に入ったらしかった。プロポーズを快諾してくれた日に面と向かってそんなことを言われたら、口から出まかせでしたというわけにもいかない。  結婚してからもう九年。律儀な俺は未だに彼女の荷物係だ。 「いいよ。たいしたもの買ってないから」 「いいから貸せって。今は特に気を付けないと」  彼女のお腹には小さな命が宿っていた。ようやく授かったばかりの命。どれだけ待ちわびたかわからない。まだ気配も感じないけれど、二人の血を半分ずつ分かつ者が存在するという事実は、他に例えようもない喜びだった。 「うわっ。本当に軽いな」  強引に取り上げた買い物袋の中身は、ニラともやし。納豆とちくわと俺が飲むアルコール度数が高めの缶酎ハイが一本。それからマヨネーズ。今夜はどんな夕食だろうと思いを馳せても、冷蔵庫の中身を知らない俺には予想もつかない。 「何でカロリーハーフにしたんだよ。マヨネーズの味、薄いだろ」 「そろそろメタボに注意が必要な年頃でしょ」 「まだ若いよ」 「髪の毛、気にしてるくせに」 「智子もシミ増えたよな」 「うるさい」  そんな憎まれ口を叩き合ったところで、互いに車のドアに手をかけた。
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