君のすべてをちょうだいよ

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「何それ、冗談? マジキモい……」  それが三年に渡った俺の初恋が終わった台詞だった。 「まだ食い足りねえ」  俺の隣で颯太(そうた)が独りごちる。颯太の膝の上にはその図体には似合わない可愛い弁当箱が空っぽになっていた。  颯太の目は俺の右手の食べかけのコロッケパンを見つめている。その視線に気がつきながらも俺は残りのパンを全部口の中に押し込んだ。 「……あんあよ?」  牛乳でコロッケパンを流し込みながら、あからさまにがっかりしている颯太を横目で睨みつけた。  旧校舎の階段の一番上の踊り場。ここが俺と颯太の昼休憩スポットだ。この旧校舎は来年早々に取り壊しが決まっていて、今は殆どの教室が使用されていない。辛うじて一階の図書室と視聴覚室が利用できるくらいだ。まだ充分に使える建物なのに何でも新しい耐震基準に沿わないとかで、建て替えをした方が早いらしい。まあ、そこらへんは俺にはどうでも良いのだけれど、新しい休憩スポットを探すのが面倒だなとは思っている。 「おいハル、それ食わないなら俺にくれ」  痺れを切らして、まだ袋を開けていないアンパンを顎で指して颯太は当たり前のように俺に手のひらを差し出した。  生まれた頃からの幼馴染は俺の名前を晴哉(はるや)ではなくハルと呼ぶ。家も近く、母親同士が学生時代からの親友で仲がいいから、互いに一人っ子なのに俺と颯太は兄弟のように育った。  無口で無愛想な颯太は陸上部に所属する体育会系男子。高校に入ってからぐいぐいと背が伸び始めて、それと同時に女の子に急に人気が出てきた。ここ最近の颯太の昼飯は彼女達から代わる代わる差し入れられる弁当になっている。対して俺は本ばかり読んでいる文系男子。周りからはちょっと不思議がられる取り合わせの二人だ。 「いやだよ、これ食べないと俺も夕方までもたないもん。そんなに足りないなら今からパンでも買ってくれば?」 「この時間に購買に残ってるわけないだろう? なあ、半分、半分こしようぜ」
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